プライスアクショントレーダー

Dix-Murrayの短期売買法

第二章:手放す勇気

第2章:手放す勇気

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結論から言うと、ビルは投資で年間大きなリターンを出し、資金面で十二分な成功を手にする。私の元を訪れて2年ほど経ってからのことだ。

 

だが、私の元を訪れたばかりの彼はそんな姿からは程遠い存在だった。それもそのはずだ。懸命に貯めた資産を少しでも増やそうと始めた投資により、その大半を失っていたのだから。

 

「ディック、僕はどうすればいい?」

「君はどうしたいんだい」私は言った。

「資金を増やす手段は、なにもトレードである必要はないんじゃないかい?」

 

彼はしばらくうつむき、「トレードが好きなんだ」といった。

「もちろん、トレードの目的は資金を増やすことなのは分かる。それは間違いない。でも、相場に向き合っている時間が好きなんだ」

ビルは私をしばらく見つめるとつづけた。「どうやっても勝てなくて資金が減り続けるなかで色々考えたんだ。僕はトレーダーには向いてないのかもしれないって。それにおかしな話に聞こえるかもしれないけど、世間で勝っていると言っている人間の中で本当に勝ってるやつなんていないんじゃないか、って思ったり」

 

為替相場で個人が自由に取引できるようになり、トレーダーは右肩上がりの増えていった。それと同様に、トレードで勝つ方法、月100万でも200万でも実現させる究極システムとうたったスクールや教材を販売する者が増加した。

彼らが提示する文章には魅力的な文言が並び、あたかも簡単に大金を手にできるような印象を与える。

 

彼らが本当にトレーダーとして存在しているのかは定かではないが、ひとつ言えるのは簡単に稼げるビジネスなど存在しないということだ。簡単に稼げているとすれば、それは実践者が苦労して学び、習得して得た結果だ。

誰でも最初から同じように稼げるわけではない。多くの人がその過程から目を背け、結果ばかりにフォーカスしている。ビルも負け続け、その苦しみから逃げるために大金をはたいて教えを請い、結局物にできないまま終わっていた。失った資金を取り返したいという強い気持ちが結果ばかりを求め、それまでの学びに支障を与えていたのだ。

 

「でも、確かにディック、君が大きなリターンをあげているのは知っている。相場の世界で確かに利益をあげている人がいるのも知っているんだ」

 

その日の夜、私たちは妻を交え夕食を共にした。トレードの話ではなく、これからどうなりたいのか夢を語った。彼の顔から少しづつ明るさが戻ってきたとき、私はいった。

 

「ビル、本当にまだトレードをつづけたいのかい?」

彼は飲んでいたバドワイザーを見つめたまま、「結果がどうであれ、やれることはすべてやりたい。確かにいまやめれば少なからず資産は残るだろうけど、きっと僕は後悔すると思うんだ」といった。

 

 

プライスアクショントレーダー

私はビルを書斎へ招くと、普段つかているチャートを彼に見せた。私にとっては当たり前のチャートも、インディケーターだらけのチャートに慣れたビルにとっては心もとなく感じたのだろう。

彼はシンプルなチャートをみつめ、「これだけかい? 本当に?」といった。

 

 

「いいかい、ビル。僕も以前はインディケーターを色々試していたよ。ADXを改良したりしてね」

私はパソコンの前に腰を下ろすと、ビルを見つめた。

「でもそんなインディケーターだけを頼ったトレードではこの投資の世界では生き残れない。負けと勝ち、そして検証を繰り返して気づいたんだよ。だから私は遅行指標ではなく、売買そのものに目を向けたんだ。いいかい、ローソク足はブル派とベア派の売買記録であり、彼らが残した足跡なんだ。私たちプライスアクショントレーダーは、その足跡から彼らがどこに向かおうとしているのか、何を決断したのか、それを判断する。
ただ、だからといってインディケーターを使うのが悪いのかと聞かれればそうじゃない。重要なのは、それはあくまでも補助でしかないということを忘れないことだ」

いまやビルはとても不安そうだ。彼の目がそれを物語っていた。

 

「焦ることはない。どちらにしても学びが必要なんだ。君の時間が許す限り、ここに居るといい。その間は僕が協力するよ」

「ありがとう、ディック」

「いいさ、僕も以前は君のような状態だったからね」

 

その言葉通り、私も最初から勝てる投資家ではなかった。なかったどころか、トレーダーに成績と順位があれば、下から数えたほうがはやいくらいのトレーダーだっただろう。大きく勝つときもあれば、それを1日ですべてマイナスにしてしまうような投資をしていた。

 

それはまさにギャンブルといえた。

 

私にトレード技術を教えてくれた日本人の投機家は、「君は相場の本質から離れたところにいる。それじゃ何をやってもダメだ」といっていたが、まさにその通りだった。MACDがクロスし、ボリンジャーバンドの2σにタッチしたらお構いなしに買い、RSIが買われすぎゾーンに到達しストキャスティクスがダイバージェンスを起こせばこれまたお構いなしに売る。

 

こんなトレードの一番悪いところは、「運悪く勝つことだ」

インディケーターをメインにトレードをしていても、勝ち越すことだってもちろんある。そこでこう思ってしまう。「このインディケーターの組み合わせやロジックは完璧だ」と。

 

だがそれはたまたま相場が良かったに過ぎない。時間が経てばそのロジックは崩壊し、支えのない内側を見ることになるだろう。多くのトレーダーが同じような状態といえる。

インディケーターを探しては設定値をいじりまわし、あれやこれやと組み合わせる。勝てている間はもう立派なトレーダーだ、と胸を張るが、ある日を境に勝てないようになると検証もろくにせず新たな聖杯探しの旅にでかけていく。それが負のループとも気づかずに。

 

「ビル、まずは相場の本質を理解することだ」私はいった。

「いまの状態を変えたければ、いま手にしているものを捨てる勇気も必要なんだ」

 

その夜がビルにとっての大きな分かれ道となった。

 

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